備忘録としての生活記録

知識は無いけれど芸術が好きなコミュ障インキャ芋ブスヲタクの戯言

薄井憲二バレエ・コレクション特別展 The Essence of Beauty バレエー究極の美を求めてー:そごう美術館:~2018/12/25

薄井憲二バレエ・コレクション特別展 The Essence of Beauty バレエー究極の美を求めてー:そごう美術館

に行って参りました。

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 筆者は、絵画以上に、バレエに関する知識は皆無で、今回本展に足を運ぼうと思ったのは、たまたま横浜方面に用事があったため、また、ポスターのアンナ・パヴロワの写真とアンティークプリントに惹かれたためです。

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 こちらはそごう横浜6階にある美術館です。百貨店内の美術館ということで、筆者は精々2時間あれば回れるだろう……と思っていたのですが、全く足りませんでした……。後ろに用事があったため、展覧会後半は大分駆け足になってしまい、少々無念ですが、それでも十分に満足できるものだったのは確かです。

 全体としては、百貨店という空間故か、一般的な美術館よりも開けており、また美術館独特の張りつめた静寂も無く、気軽に足を運べる印象でした。実際に親子連れや小学生程の子ども達の姿も多く見受けられました。

 解説も大変コンパクトで分かりやすく、頭をフル回転させながら鑑賞する、というよりも、会場を出たらいつの間にか知識が増えていた!というような感想を抱きます。

 会場を入るとすぐ、牧阿佐美バレヱ団による『くるみ割り人形』のハイライト映像が見られます。筆者にとっては、授業で見た『春の祭典』の『生贄の踊り』を除けば、これが人生で初めて見たバレエでした。役者が動くたびに煌めく衣装、登場人物たちの人間離れした華麗な動き――人間の理想とする美の全てがそこにある気がして、目を離せなくなってしまいました。会場には、様々な役者さんたちの写真も展示してあるのですが、映像を切り取った作品でさえ、物凄く美しい……。勿論、彼らの顔が端正なこともその一因ですが、表情から爪先まで、神経の通った人形のように理想的な姿なのです。

 以下では、特に印象深かった展示を具体的に振り返ってみたいと思います。本展は、「バレエを知る」「バレエを見る」「バレエを踊る」という三部構成になっていますが、このブログでは、平面資料と立体・映像資料との二部に分けて感想を述べていきたいと思います。

 

平面資料

 まずは、ワツラフ・ニジンスキー晩年の写真『最後の跳躍』です。人間離れした跳躍を見せたというニジンスキーは、晩年精神に異常を来たし、踊ることを忘れてしまったそうです。しかし、見舞いに来たセルジュ・リファールが彼の目の前で『薔薇の精』を踊ると、その跳躍シーンで、ニジンスキーが人生で最後の跳躍をみせたといいます。とても胸を打つ話で印象にに残っていたのですが、帰宅後こんな記事を見つけました。(ロシア・ビヨンド様の記事です。引用に関する記述が見当たらなかったため、下記のように引用させていただきますが、問題がある場合は直ちにご連絡いただければ即対応致します。)

jp.rbth.com

 もともと一般とは離れた精神を持っていたのであろうニジンスキーが、人間離れした身体技術を持っていたのは大変興味深い事実です。以前モンゴルを旅行した時に、神をその身に降ろしたシャーマンが、自己の身体を傷つけたものの、神が抜けるとその傷は治っていた――という話を聞きました。仮に、ニジンスキーの精神異常が、常にその身に神を宿しているゆえの超精神的なものだった場合、彼自身が「空中で止まるだけ」だと評する身体的行為を難なくこなせたのは、ある意味不思議なことではないのかもしれません。ニジンスキーへの興味が一段と深まります!

 

  その他、印象に残っていたのは、「ルイ14世の『太陽王』の呼称は彼が好演した太陽神バロンによる」という話です。バロンってバリ島の聖獣の?と思いましたが、インターネット上には、ルイ14世太陽王の起源はギリシア神話の太陽神アポロンだとする話が多く見られます。単純にバロンとアポロンを間違えたのか、それともバロンとアポロンには共通した背景があるのか、はたまたやはりルイ14世が好んだのは聖獣バロンなのか……ぜひ書物で調べたいです。

 また、様々なバレリーナ達に関する展示や逸話もとても面白かったです。伝説的なバレリーナであるマリー・タリオーニやファリー・エルスラーの直筆の手紙も展示されていました。それぞれイタリアやオーストリアという国の言語故なのかもしれませんが、字があまりにも繊細で美しく、彼女らの可憐な踊りが想像できるようでした。

 

 一見きらきらしたバレエの裏側を描いた風俗画のアンティークプリントも大変興味深いものでした。例えば、娼館としてのバレエについてです。当時バレエは文化的に退廃していき、紳士達がお気に入りの少女を探す場であると同時に、バレリーナ達が紳士の中からパトロンを見つける場であったそうです。アンティークプリント『オペラ座のネズミ』の、皆同じ顔とポーズをした少女達の絵は、特に印象に残りました。

 

 そして、今回の何よりもの収穫は「バレエ・リュス」です。もともとストラヴィンスキーやダリ、ピカソが関わったバレエ団があることは知っていたのですが、今回の展示で初めてその詳細を知ることができました。さらに、私の好きなジョルジョ・デ・キリコも関わっていたなんて!私は寡聞にして存じ上げませんでしたが、2007年には映画『バレエ・リュス ~踊る歓び、生きる歓び』が上映されていたり、2014年には国立新美術館で「現代の芸術・ファッションの源泉 ピカソマティスを魅了した伝説のロシア・バレエ 魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」が行われていたりしたそうです。

www.phantom-film.jp

www.tbs.co.jp

魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展 Ballets Russes: The Art of Costume|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

  さらに!残念なことに、早歩きでまわってしまった後半に、バレエ・リュスに関わった芸術家たちに関する資料がありました……。これは、もっと自分で本を読んで研究しなさい、というお告げですね、きっと。

 

 その他、随所にバレエの物語のあらすじが書かれているのもとてもよかったと思います。読むのが苦ではない程度にまとめられており、文章も分かりやすく、とても楽しかったです。特に印象的だったのは、ジョルジュ・バルビエの作品がまとめて展示されていた一角です。バルビエの多数の作品が並べられ、その下部分に作品の題材であるバレエのあらすじが一つ一つ展示されており、まるで絵本を読んでいるかのような感覚を覚えました。バルビエの作品もとても香しく、特に『シェエラサード』の官能的な美しさは忘れられません。

(インターネット上で、バルビエの作品を紹介しているブログを見つけました。

ジョルジュ・バルビエ 「ニジンスキー」 George Barbier - NIJINSKY.)

 

立体・映像資料

 本展の目玉の一つでしょう。中盤では、アンナ・パヴロワの実際の演技の白黒映像を見ることが出来ます。様々な作品のダイジェストで、多少の原作の改変はあるそうですが、件の『瀕死の白鳥』も見ることが出来ます。可憐なアンナ・パヴロワの様々な映像の中で、『瀕死の白鳥』の痛々しさが際立っていました。死の間際、白鳥の衣装を求めたという彼女の白鳥は、まるで針の上に立って踊っているかのような危うさがありました。突然ふっと力の抜ける四肢や、どこか上品な痙攣は、ついつい息をするのを忘れて見入ってしまいます。

 後半には、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』等のバレエ作品で実際に使用された衣装の展示が並びます。こちらも、男性の衣装も女性の衣装も、溜息が出るほど美しい。裾の長い衣装や、ビロードのような重々しい見た目の衣装もあり、実際にそれを着て役者が妖精のように踊っていたことなど想像もつかないほど豪奢で煌びやかです。勿論衣装に手を触れることはできないのですが、ショーケースや立ち入りを禁ずるテープがあるわけではなく、非常に近しい距離感で展示を鑑賞することができます。

 

 最後に紹介したいのは、エリアナ・パヴロワの、第二次世界大戦中の戦地慰問に関する手資料の展示です。エリアナ・パヴロワはアンナと同じパヴロワ性ですが、軽く調べましたが、彼女らに血のつながりは無さそうです……。本で調べる時間が無かったので、断言することができません……。もしも詳しいことをご存知の方がいらっしゃいましたら、是非詳しく教えていただきたいです。閑話休題。展覧会では、祖国ロシアの革命を逃れて来日し、日本に帰化したエリアナ・パヴロワに関する資料が多数展示されています。戦争当時の空気をそのまま纏ったような腕章や、慰問公演を見た兵士からの手紙等、見ごたえのある資料が多数でした。また、アンナが、自らの日本の帰化について、「私は日本を愛しているけれど祖国を捨てたわけではない」といったような内容のことを語っており、その両極端で過激にならない、優しく大らかな態度は、是非見習いたいと感じました。

 

 総じて、時間の都合で全ての資料を鑑賞することはできませんでしたが、バレエという筆者にとっては初めての展示であったにも関わらず、非常にためになる展示でした。今回の展示で、改めて色々と調べてみたいことが増えたことに加え、絵画以外の広い視野で「芸術」を見ることができたのも大きな収穫であると思います。

 

<その他参考>

公益社団法人日本バレエ教会、バレエ小辞典

http://www.j-b-a.or.jp/o/contentsu.html

◍そごう横浜、薄井憲二バレエ・コレクション特別展 The Essence of Beauty バレエー究極の美を求めてー展専用ページ

(問い合わせたところリンクの掲載の許可が下りませんでしたので、興味のある方はご自身での検索をお願い致します。)

 

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ーー2018/12/9

 

「薄井憲二バレエ・コレクション特別展 The Essence of Beauty バレエー究極の美を求めてー」
場所:そごう美術館
会期:2018/11/23(金)~2018/12/25(火)、会期中無休 ※詳細はホームページ等をご確認ください。